- 貸倒懸念債権のキャッシュ・フロー見積法では、なぜ当初の利子率で割り引くのですか?
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当初の見積りからの減損額を算定することを目的としているからです。
解説
当初の利子率を使用する理由は、金融商品会計に関する実務指針に記述されています。
債権の取得価額のうち当初の見積キャッシュ・フローからの減損額を算定することを目的として行われるから
金融商品会計に関する実務指針299項
ポイントは「当初の」という部分です。
今回は下記の数値例を前提に説明をしていきます。
- A社に1000の貸付を行っている。利率は10%、返済期日は翌期末である。
- 当期末にA社の財政状態が悪化したため、利率を6%に引き下げた。
- 貸倒懸念債権に該当するため、貸倒引当金はCF見積法により算定する。
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貸倒引当金の金額は?
貸倒引当金の金額は36(=1000−現在価値964)

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そもそも「当初の利子率」とは「貸付時に決めた利率」のことなので、貸付時の当社をイメージしてみましょう。
当社:「A社に貸すなら、利息は15%では多すぎる、6%では少なすぎる…うーん10%が適正だ」
このように、「A社に対して貸し付けるなら何%が適正なのか」を見積もって利率は決定します。
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しかし、今回はA社の財政状態の悪化により利率の引き下げをすることになりました。
この結果、将来A社から受け取れる額(将来CF)は1100から1060へ減額することになります。
この利息を減免した後の将来CF1060を「当初」の視点で考えます。
「当初」からすればA社に対する貸し付けは10%が適正な利率(本記事ではこれを本来の利率と表現します)です。
しかし、将来CFは1060になりました。
- 本来の利率は10%
- 将来CFは1060
この2つから次のことがいえます。
- 本来964だけ貸せば1060得られたはずなのに、
- 1060得るために1000も貸し付けてしまった。

1060のCFを獲得するだけならば、本来は964貸し付ければ良かったのです。
しかし結果的にみれば、1060のCFを獲得するために1000も貸し付けを行ってしまいました。
であるなら、余計に貸し付けている36が、損した金額となります。

このように、CF見積法は
「利息減免後の将来CFを獲得するだけなら、本来いくらの貸付で済んだのか?」
という視点にもとづき、
余計に貸し付けてしまった金額を貸倒引当金として、当期に損失計上する方法なのです。
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まとめると、
CF見積法では、
- 利息減免後の将来CFを獲得するための「本来の貸付額」を求め、
- 「実際の貸付額」と「本来の貸付額」との差額を、損失として計上する。
そして、1の「本来の貸付額」は 「当初の見積(10%の利回り)」にもとづき計算するのです。

よって、将来CFから「本来の貸付額」を求めるために「当初の利率で割り引く」というわけです。

コメント
コメント一覧 (8件)
解説がとても分かりやすかったのですが、紹介されている本は「1年生」とのことですが、簿記1級レベルの解説はされていますか?
範囲の内容が記載されているのであれば購入したいと考えております。
スッキリわかるシリーズの教材使っていたのですが
10000円を年利3%で貸し付けていたが条件緩和の申し出を受け、利率を1%に引き下げた場合、最終的に帰ってくるお金というのは10000×101%の10100円ということでよろしいでしょうか?
私は今まで利率が途中で変わるということに対して
現在割引価値×1.03×1.03×1.03×1.01×1.01みたいなイメージを持っていたのですが
それは間違いで
利率を引き下げると10000円を貸し付けたけど戻ってくるのは10300円ではなく
10100円が戻ってくるということで
戻ってくる金額が少なくなったにも関わらず貸付金元本として条件緩和後の割引現在価値よりも多い金額を貸し付けてしまったというのが問題ということであっていますでしょうか?
解説ありがとうございました!
一つ質問なのですが、冒頭で引用されている金融商品会計に関する実務指針299項の「当初の見積キャッシュ・フロー」という部分は、当記事の基本例題でいうところの「将来CF1,100」と「将来CF1,060」のどちらに該当するのでしょうか?
1100を意味します!
とても分かりやすかったです!ありがとうございました。
こちらこそコメントありがとうございます!
お役に立てて、よかったです。
ご返信頂けて光栄です。
4月から来年の税理士試験に向けて簿記論財務諸表論の勉強を始めた所でして、とても参考になる解説で助かりました。
受験生なのですね、力になれて良かったです!
税理士合格に向けて頑張ってください👍