こんな質問をいただきました。
一般的に売上高は会社の規模を表すと言われますが、会社の規模は貸借対照表からも読み取れるような気もします。総額表示されている売上高や売上原価から読み取れる会社の規模とは具体的にはどのような規模であり、投資家の意思決定にとってどのような有用な情報であるか(=どのように貢献するか)をご教授いただきたいです。
まとめちゃうと「資産の規模と売上の規模の違いは?」ということかと思います。
これらの違いを一言でいえば、
- 資産はストックの規模
- 売上はフローの規模
- そして、フローの規模は非常に重要
となるのですが、イメージすることが大事なので、簡単な例を使って考えてみましょう。
▼
次の、AさんとBさんの将来性を比較してみてください。
Aさん
- 資産家で都内の一等地に住んでいる
- 仕事は不真面目で給料は低い
Bさん
- 賃貸マンションに住んでおり、資産は特になし。
- 優秀な営業マンで高給取り
どっちの方が将来性あるかと思いますか?
▼
2人の違いは家と給料ですね。
- Aさんは家をもっているが、給料は低い。
- Bさんは家をもっていないが、給料は高い。
この家と給料が、財務諸表でいう資産と売上です。
資産を持っているAさんに将来性を感じるかどうか?と言われたら、、、
正直、首をかしげたくなると思います。
今は資産がなくても、Bさんの方が将来性ありそうですよね。
▼
このように考えてみると、将来性を考えるためには資産の規模だけでなく、売上の規模も必要ということがわかるかと思います。
結局、投資家が財務諸表から知りたいのは、その会社が将来成長するかどうかです。
つまり、利益を将来あげることができるのかを知りたいのです。
(正確には、将来利益を「知る」のではなく「予想する」です。)
そして、会社の将来利益を予想するためには、売上の情報は非常に重要です。
なぜなら、利益の一番の源泉は売上だからです。
これが、売上の規模が重要な理由です。
▼
軽い感じでまとめちゃうと、
「資産の規模だけじゃ、将来の利益予想はできないよ〜」
ってことですね。
(極論、もし資産の規模だけで十分なら損益計算書がいらないってことになっちゃいます。)
▼
財務諸表からどのような情報を読み取れるのか?という点を勉強するなら、下記の書籍がオススメです。
(書評記事はこちら)
コメント
コメント一覧 (6件)
追記させていただきます。
資産の規模は、
利益(=成長性)を成長率に換算するのに使用したり、
資産構成・資産額からビジネスモデルを示してビジネスリスクを投資家が予測することに貢献しているというような認識でよろしいでしょうか?
当質問をさせていただいた者です。
nobo様のご説明大変参考になりました。
ご説明を拝読した上で、更に2点ご質問させていただきたく存じます。
1点目
ご説明から利益が将来性の予測に貢献することは理解できましたが、
売上高と売上原価を売上総利益として純額表示せずに、総額表示する理由は何かご教授いただきたいです。
私は以下のように理由を推定致しております。
「利益の源泉が売上高である」
とのnobo様のご説明から、
売上総利益だけでは、
会社の収益の源泉であるコアコンピタンスが高まったことによって売上総利益が増加したのか、
仕入れコストが削減されたことにより売上総利益が高まったのか、
不明であるため、
売上総利益だけの純額表示では、
会社の成長性の予測に十分な情報を投資家に提供しないから。
2点目
売上高・売上原価の規模が、
会社の成長性の予測に貢献することは、nobo様のご説明から理解しました。
では資産の規模は、
会社のどんな性格の予測に貢献するのでしょうか。
以上の2点が質問となります。
ご回答をよろしくお願い致します。
この質問は、損益計算書の存在意義を問う質問ですね。
なぜなら、そもそもとして、PLは利益を総額表示するための財務諸表だからです。
PLがなくても、BSの利益剰余金の増加額で純利益はわかります(配当などの資本取引は無視)。
『BSの利益剰余金の増加額=利益の純額』
つまり、仮に純額表示で済むならPLなんて不要なのです。
では、BSで利益の純額がわかるのに、なぜPLが必要かというと、利益を総額表示したいからです。
どれくらいの支出を行って(費用→売上原価など)、どれくらい獲得したのか(売上)
を表示するのがPLの役割なのです。(繰り返しになりますが、総額表示がPLの基本なのです)
では、なぜ利益の総額表示が必要かというと、
これも1つの理由です。
また、同じ売上総利益1億円でも、売上高1000億円と売上高2億円では、ビジネスのスケールが全然違います。
売上高2億円では、ちょっとしたアクシデントで売上がとんでしまう可能性もありますが、1000億円もあればそう簡単には傾きそうにないことが想像できます(ビジネスモデルにもよりますが)。
このように、総額表示をするからこそ多くのことを投資家に伝えることができるのです。
財務諸表分析は、BS、PL面を組み合わせることが多いです。
①資産1億円→売上1000億円
②資産1000億円→売上1000億円
この場合、①の方が少ない投資で、多くの売上を獲得できているので、効率がいいといえます。
代表的な指標としてROA(総資産利益率)というものがありますので、興味があれば調べてみて下さい(会計士試験の勉強でもでてきます)。
ちなみに、資産の規模といっても、現金はいくらか?固定資産はいくらか?によっても示す意味は異なります。
そのため、財務諸表分析では、様々な指標を用いて総合的に判断することになります。
nobo様
とても丁寧なご回答をありがとうございます。
お陰様で先ほどの2点の質問の疑問点を解決できました。
P/Lの存在意義について
nobo様にご回答いただいたことで、私は以下のように推定しておりましたため、推定が正しいことが分かり良かったです。
資本金・利益剰余金を負債のようなものと捉えると、
資産・負債・資本金・利益剰余金は実際の取引において生じるから、それを仕訳として反映していると説明できる。
収益・費用という実際の取引において生じていない概念のようなものを仕訳で認識する理由は、会社の収益力を示すためだと説明できる。
上記のように推定しておりました。
そして、その収益力である売上高・売上原価とはいったいどのようなものなのか疑問に思い、今回ノート作成を依頼させていただきました。
nobo様の作成ノートおよび質問へのご回答によって、
収益力とは、
一概には定義できませんが、
コアコンピタンス・ビジネスリスク・成長性などであると理解できました。他にも、財務分析でP/Lを使う指標は、収益力を表していると言えるのかもしれないと思いました。
以上の私の認識に修正した方が良い点がございましたら、ご指摘お願い致します。
次の2だけ気になったので補足しておきます。
収益→利益剰余金の増加理由
費用→利益剰余金の減少理由
なので、取引において生じる・生じていないというのは少し違う気もします(が、捉え方の違いかもしれません)。。。
ただ、収益・費用があるからこそ、利益剰余金の増減理由を明示でき、PLが作成できるという側面はあります。
「成長率」というのは一般的に前期からの変動率として測るものなので、単に当期の利益と資産だけでは成長率は算定できないと思われます。
ご指摘ありがとうございます。
nobo様にご教授いただいたことを胸に刻んで精進して参ります。
失礼します。