今回は「利益の額≠資金の増加額」となる理由について解説をします。
実例
まずは実際の企業を例にとってみましょう。今回はアマゾン・ドット・コム(AMZN)の数字を見てみます。
(※アマゾンを例にした理由は特にありません。)
アマゾンの2017年12月期の金額は以下のようになっていました。
- 当期純利益→30億ドル
- 現金の増加額→11億ドル
2つの金額は大きくずれています。
20億ドルも違う・・・
このように、アマゾンを例に取らなくても、利益と現金増加額は一致しないことが通常です。
現金の増加額と利益がズレる理由
さっそく結論です。
ズレる理由には2つあります。
- P/Lは発生主義だから(現金主義ではないから)
- 資金が増減していても、損益計算に算入されない取引があるから
この2点について確認していきます。
ズレる理由1:現金主義と発生主義
現金主義とは、現金収支に基づき収益と費用を認識する考え方です。
対して、発生主義とは、現金収支に関係なく価値増減の発生に基づき認識する考え方です。
現金主義と発生主義の違いがわかる具体例を2つ用意しました。
掛け販売した場合
商品を掛け販売した場合です。
このように掛け販売した場合には、お金はもらっていませんが、売上という収益を計上します。
つまり、掛け販売については
- 現金の増減→増加なし
- P/Lの利益→増加する
となり、現金の増加額と利益の額にズレが生じます。
減価償却費を計上した場合
もう一つは減価償却費を計上した場合です。
減価償却費は「使ったことで固定資産の価値が減った」という経済的事実に基づき、費用として認識します。
減価償却費の仕訳をみてわかるとおり、貸方では現金の減少がないにも関わらず、借方で減価償却費という費用を計上しています。
そのため、
- 現金の増減→減少なし
- P/Lの利益→減少する
となり、減価償却費の額だけズレが生じます。
減価償却費のように、現金支出がない費用のことを「非現金支出費用」というんじゃ
ズレる理由2:P/Lの損益計算に入らないもの
続いて「資金が増減していても、P/Lの損益計算に入らないからズレる」ケースを見てみます。
資金の借り入れ
典型例は借金をした場合です。
借り入れたことで現金は増加しますが、仕訳の貸方は収益ではなく負債です。そのため損益計算書には何も影響しません。
収益を計上しないのは、借金してお金が増えても、儲けたわけではないことが理由です。
そのため、
- 現金の増減→増加あり
- P/Lの利益→増加しない
となり、借入額だけズレが生じます。
これ以外では配当金の支払いもズレる原因の一つじゃ。配当金は費用じゃないからP/Lに計上はされんが、現金は減少するためズレが生じるんじゃ
上記からわかること
資金の増減はキャッシュ・フロー計算書(C/S)に表示されますが、会社を分析する際は、損益計算書だけでなくキャッシュ・フロー計算書も見る必要があることがわかります。
典型例は、無理な押し込み販売です。
押し込み販売を行っている会社は、ガンガン商品を販売する分だけP/Lの利益はあがります。
しかし、押し込み販売の場合、代金回収は後回しになるので現金は増えません。
この場合、翌期以降に貸し倒れや返品が多額に生じる可能性があります。
その結果、最悪の場合には黒字だったのに倒産するということにもなりかねません。
損益計算書を見ただけではこの点に気づくことは難しいですが、CF計算書を見れば現金増加がないことがわかりますので黒字倒産の予兆に気づくことができます。
だから、損益計算書とCF計算書の両方を分析することが大事なんだね
もう一つの典型例は減価償却費です。
減価償却を多額に計上している場合、利益は少額でも現金は多額に増えているケースがあります。
これは先ほど説明したとおり、
- 利益→減価償却費だけ小さくなる
- 現金→減価償却費は影響ない
という関係にあるからです。
「減価償却が利益と現金がズレの原因」というのは、CF計算書の間接法を理解するうえで重要じゃぞ。だからしっかり理解しておくのがおすすめじゃ
まとめ
最後に今回の内容をまとめておきます。
・資金の増減額と利益がズレるのは、①P/Lは発生主義だから、②P/Lの損益計算に入らないものがあるから、という2点
・特に減価償却費がズレの原因というのが重要
・企業分析をする際は、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の両方をみることが大切
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