こんにちは!
在外子会社を有する場合の連結キャッシュ・フロー計算書の解説をします。
具体的には、簡便法における為替換算調整勘定の増減分析です。
難しい内容ですが、頑張りましょう!
為替換算調整勘定の増減分析をする理由
為替換算調整勘定は、単なる資本の換算差額なので、直感的に考えるとCF計算書と関係がなさそうです。
しかし簡便法の精算表(ワークシート)では為替換算調整勘定の増減分析を行います。
なんで…???
なぜなら、精算表は「貸借対照表全体の増減分析をもとにCF計算書を作成する」仕組みとなっているからです。
具体的には比較貸借対照表(比較BS)からCF計算書を作成します。
比較BS:当期末BSと前期末BSの差額に注目したBS
比較BSからCF計算書を作る?
精算表の仕組みがわかっていないと、為替換算調整勘定の分析は理解できんから、簡単に説明をしよう
精算表の簡単な仕組み
精算表の仕組みを理解するには、貸借対照表を以下のようにみる必要があります。
「現金」と「現金以外の項目」の2つに分解するのね
そのとおりじゃ。そのうえで、「現金以外の項目の増減」と「現金の増減」の関係に注目するんじゃ
具体例をみていきましょう。
精算表を理解するための具体例2つ
例1 現金売上
期中に現金売上10円の取引を行った場合を考えます。
仕訳と比較BSは以下のようになります。
仕訳:現金10/利益剰余金(売上)10
比較BSは「CF計算書っぽく読む」がポイントです。
具体的には「現金以外の項目の増減により現金が増減したか?」という視点で読みます。
例えば今回の比較BSは「利益剰余金が10増えたから、現金が10増えた」と読みます。
読み方がわかったら、実際に比較BSからCF計算書を作成する過程を確認してみましょう。
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比較BSからの作成手順は2段階になっており、
- 比較BSをCF計算書の様式に並び替える
- 並び替えた比較BSをCF計算書に組み替える
となります。
図にすると以下のようなイメージです。
このように比較BSをスタートにCF計算書を作成します。
比較BSからCF計算書を作成するイメージはなんとなくわかったでしょうか?
もう一つ例をみてみましょう。
例2 掛け売上
掛け売上10円を行った場合をいきます。
仕訳:売掛金10/利益剰余金(売上)10
今回は、現金以外の項目(売掛金と利益剰余金)が増えてますが、現金は増えていません。
これを前提に比較BSからCF計算書に組み替えてみます。
このようになります。
現金以外の項目の増加(利益剰余金の増加と売掛金の増加)が互いに打ち消し合い、正味の現金増加額に対する影響をゼロにしています。
(間接法における小計の上で債権債務の増減を加減するのはこのためです)
現金が増減しない場合は、このように組み替えることでCF計算書を作成することができます。
以上について一回まとめてみましょう。
精算表の考え方のまとめ
比較BSをCF計算書視点で考えると、「現金以外の項目の増減」は以下の2パターンに集約されます。
パターン1:現金の増減を伴う増減(例1)
パターン2:現金の増減を伴わない増減(例2)
パターン1の場合、現金以外の項目の増減はCF計算書に計上されます。(例1では利益剰余金の増加10は営業収入に計上されていました)
対して、パターン2の場合、相殺し合うことでCF計算書への影響をゼロにします。
BSはその仕組み上、現金以外の項目が増減した場合、現金が増減するか、現金が増減しないかの2パターンしかないんじゃ。そこに着目して組み替えていくのが精算表の考え方じゃ
為替換算調整勘定の考え方
上記の考え方は為替換算調整勘定(以下、為調)も同じです。
為替換算調整勘定もBS項目である以上、現金の増減を伴うもの(左の図)と伴わないもの(右の図)があるのね
そうじゃ
ん…でも、為替換算調整勘定って資本の換算差額なんだから現金の増減なんて伴わないんじゃないかしら?
それが自然な考え方じゃが、実はそうじゃないんじゃ
為替換算調整勘定は資本の換算から生じます。
ですが、そもそも資本は資産と負債の差額です。そのため、為替換算調整勘定は資産(または負債)の換算から生じるものとして考えることができるのです。
為調 = 資本の換算差額
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為調 = 資産の換算差額 − 負債の換算差額
確かに…でもまだイメージはつかないわ
仕訳ベースで在外子会社の財務諸表を作成してみるとわかりやすいぞ
例えば、
- S社の期首BSには何も計上されていない
- S社は期中に1ドルの現金売上を行った
という場合を考えます。
このケースにおける外貨表示の財務諸表と円貨表示の財務諸表を示すと以下のようになります。
(換算相場:期首1ドル=100円、期中1ドル=105円、期末1ドル=120円)
・外貨表示
・円貨表示
この円貨表示の財務諸表を仕訳から作成してみましょう。
外貨ベースでの期中仕訳は現金1ドル/売上1ドルになりますが、これを円貨表示の仕訳で書いてみます。
現金105円/売上105円
現金15円/為替換算調整勘定15円
1行目の期中仕訳はAR換算しています。AR換算している理由は在外子会社のフロー項目(PL・CF計算書)はAR換算するためです。期中の取引はフローであるため、AR換算するのです。
そのうえでBS作成のためにBS項目(今回は現金)はCR換算します。それが2行目の仕訳です。在外子会社の換算差額は為替換算調整勘定にするため、換算による差額は為替換算調整勘定になります。
上記の仕訳を集計してみて下さい。先ほどの円貨表示の財務諸表になりますよね。
このように仕訳でみてみると、今回の為替換算調整勘定は現金の増加を伴っていることがわかります。
確かに、為替換算調整勘定の相手勘定は現金だわ…
逆に現金の増加を伴わないのは、例えば掛け売上です。
1ドルの掛け売上を行った場合の仕訳は、
売掛金105円/売上105円
売掛金15円/為替換算調整勘定15円
となり、この為替換算調整勘定は現金の増減を伴いません。
さっきと違って、こっちの為替換算調整勘定は現金の増加を伴ってないわね
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以上をまとめると
現金から生じた為調→現金の増加を伴う
現金以外から生じた為調→現金の増減を伴わない
となります。
前提の知識・理解は以上です。
最後に具体例で為替換算調整勘定の増減分析を確認してみます。
為替換算調整勘定の増減分析(具体例)
以下の外貨表示の財務諸表があったとします。
このケースは、期中で現金売上を2ドル、掛け売上を4ドル行ったという具体例です。
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まず外貨表示の財務諸表を円貨表示にしてみます。
為替換算調整勘定は110生じます。
この110の内訳は、
- 期首現金1ドルの換算差額:20
- 現金増加額2ドルの換算差額:30
- 売掛金増加額4ドルの換算差額:60
の合計です。(それぞれのドル建て金額にCR120円とのレート差を乗じれば計算できます)
先ほど説明したとおり、為替換算調整勘定の増加額は「現金の増減伴うか否か」で分類されます。
そのため110を分類すると、
現金の増減を伴わない額:60
現金の増減を伴う額:50(=20+30)
となります。
これができればCF計算書の組み替えはできるんじゃ。逆に言えば、CF計算書を作成するには為替換算調整勘定の内訳を分解することが非常に重要なのじゃ
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さあ為替換算調整勘定の金額の分析はできました。
では、比較BSから組替をしていきましょう!
現金の増減を伴わない60は、発生原因となった資産(売掛金)と相殺します。
現金から生じた50は、現金の換算差額として表示します。
このように、為替換算調整勘定の増減額を調整するのです。
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参考までにこの具体例の期中仕訳を示すと以下のようになります。
期中仕訳
現金210円/売上630円
売掛金420円
期首現金の換算
現金20円/為替換算調整勘定20円
※1ドル×(期末CR120−期首CR100)
期中現金増加額の換算
現金30円/為替換算調整勘定30円
※2ドル×(期末CR120−AR105)=30
売掛金の換算
売掛金60円/為替換算調整勘定60円
※4ドル×(期末CR120−AR105)=60
この仕訳と比較BSの組み替えの図を照らしてみてみましょう。
比較BSからの組み替えで売掛金増加額480と60を相殺して420にしているのは、仕訳的に言えば、売掛金の増加額をCR換算する前に戻し、ARベースの増加額(期中仕訳の額)を求めているということがわかります。
つまり、為替換算調整勘定を調整することでCF計算書をAR換算ベースにできるのです。
最後に
今回は、質問フォームに寄せられたりかこさんの質問をもとに記事を作成しました。
自分としても、きちんと理解していない論点であったため、勉強がてら記事を作成しました。
まだまだ理解しきれてない感もあり、説明不足の点もあるかもしれませんが、理解の手助けになれば幸いです。
コメント
コメント一覧 (6件)
お世話になっております。
20年/21年目標2年スタンダードコースの通信の受講生です。
こちらの比較B/Sを作る解き方で、財計短答答練第6回の問題2を解く方法をご解説賜りたく、お願い申し上げます。
こちらのブログを拝読し、わかった気になり、理解のために自分で比較B/Sを作ってみようと思い立ったのはよいのですが、並び替える前の比較B/Sの現金に△1,100,000を入れたところで止まってしまいました。
ご多用中とは存じますが、よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、当サイトのコメント欄では、CPA会計学院の教材に関する質問のお答えをしておりませんので、ご質問はCPAの公式質問制度からお願いいたします。
大変勉強になりました。ありがとうございます。
連結CF計算書を作る際、グループ内の債権債務の相殺等の手続きが出てくると思います。
債権と債務の差額が為替換算調整勘定に計上されていますが、こちらの処理の仕方を教えて頂きたいです。
コメントありがとうございます。
こちらの都合により、詳細にお答えすることが難しいのですが、、、
債権・債務の相殺額は為替差損益として小計の上に計上されるかと思います。
これは神解説…理解力、説明力、図解力全てに感嘆します。
恐縮です。お褒めのお言葉ありがとうございます!
最初から理解しているわけでなく、アウトプット(記事作成)をしていくなかで理解が深まっています。
これからも頑張ります!