今回のテーマは試験でも実務でもトピックになりやすい「のれん」です。
- のれんって何?
- 勉強したけどよくわからない…
という方向けに、のれんの解説をします!
のれんとは
のれんの定義と超過収益力
まず、のれんの定義から確認しましょう
のれんとは、
会社の超過収益力の源泉
をいいます。
超過収益力?
超過収益力とは他の会社より収益を多く生み出す力のことです。("超過"、"収益力"という言葉のまんまです)
もっと簡潔に言えば、
収益≒お金の増加額
なので、超過収益力とはお金を多く生み出す力と言えます。
超過収益力のイメージ
一般的な簿記のテキストでは、超過収益力はブランド力と表現されています。
ブランド力といえばiPhoneなどでおなじみのApple。
Apple製品は他社製品に比べて割高ですが、それでも売れます。
つまり、お金を多く稼げます。
高くても売れる理由は、Appleにブランド力があるからです。
Appleのリンゴマークには、世界でもトップクラスのブランド力があると言われます。
仮に、Appleではない会社がiPhoneと同程度の製品を販売しても、リンゴマークがついていなければiPhoneのように売れないのです。
このように、他の会社よりも多く稼ぐ力を超過収益力といいます。
なお、のれんという名称の由来ですが、かつて日本ではお店の入り口にのれんがかかっているのが普通でした。
こののれんにはお店の名前やロゴが書かれています。
つまり、日本においてブランド力はのれんに宿るものだったのです。
そのため、会計上はのれんという名称になっています。
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なお、上記では、一般的な簿記検定用テキストの説明にあるのれん=ブランド力という軸で説明をしました。
確かにブランド力には多く稼ぐ力がありますが、実際の買収においてブランド力は、商標権、商標関連資産などののれん以外の無形資産項目として計上されます。
のれんは色々なものから構成されるから、一概に「コレ」といえるものじゃないのね
そうじゃな、のれんは抽象的なものなんじゃ。だからこそ、どの会社にも多かれ少なかれ、のれんはあるもんなんじゃ
のれんは会計上どのように扱われるの?
のれんの会計上の取り扱い
のれんは資産
のれんはお金を獲得できる源泉であるため、会計上は以下のようにします。
のれんは資産に分類される
のれんは資産?
そもそも資産とは、お金を生むのに貢献してくれるもののことをいいます。
「…?」という方は、下記の記事を参考にして下さい。
お金を生み出すという側面で考えてみると、のれんは、商品や建物といった他の資産と同じと言えます。
そのため、商品や建物が資産として扱われるように、のれんも資産となるのです。
のれんは資産なのね、よくわかったわ!
そうなんじゃが…
のれんは資産計上できない
のれんの最大の特徴は、
自社ののれんの金額を測定しようと思っても、わからない
という点です。
例えば、自社のチームワークの良さを金額で測定しようとしてもできません。
もし仮に、
「当社の超過収益力は1億円!だから我が社の貸借対照表にのれんを1億円で計上します!」
としても、この金額は、程度の差はあっても、適当な数字(客観性のない数字)になってしまいます。
また、のれんは抽象的なものでした。
このような怪しい資産を、怪しい金額で貸借対照表に計上することはできないのです。
そのため、会社がもっているはずの超過収益力は貸借対照表に計上されないのです。
のれんは「存在しない」ではなく、「存在するけど金額がわからないからB/S計上できない」という点がポイントじゃ
建物は100で買ったという「客観的な事実」があるから金額がわかるけど、のれんは自分で計算するものだから客観性がないってわけね
そのとおり、これは貸借対照表の限界なんじゃ。ただ、逆に言えば、いくらで買ったという事実があれば計上できるってことなんじゃ
のれんを買う?
会社を買えば、のれん代がわかる
会社は他の会社を買うことがあります。
いわゆる買収です。
- A社はB社を150で買収した
- 買収直前のB社貸借対照表は以下のとおり
- 資産300
- 負債200
- 資本100
このケースを考えます
B社の資本が100なので、B社の貸借対照表上の価値は100といえます。
あえて強調すると、B社の貸借対照表にはのれんは計上されていません(存在はするけど、金額が不明なため計上されていない)。
そんな100のB社を、A社は150で買収しました。
50高く払った理由は、A社はB社ののれんを50と評価しているからです。
言い方をかえれば、B社の貸借対照表はA社には以下のように見えているということです。
150払ったということは、B社の本来の資本の額は150、と考えているということなんじゃ
買収するまではみえていなかったB社ののれんが、買収額からみえるようになるのね
ロジックをまとめると、以下のようになります。
この50ののれんは、実際に払った額をもとに算定されているので客観性があります。
のれんが資産計上できない理由は金額に客観性がないからでした。
しかし、他社を買収した場合、買収額という客観的な金額からのれんの金額を算定できるのです。
よって、買収した場合ののれんは貸借対照表に計上されることになります。
のれんには、広義ののれんと、狭義ののれんがあります。
狭義ののれん
買収のように、貸借対照表に計上されるのれんを買入のれん(かいいれのれん)といいます。
貸借対照表に計上されるのは買入のれんなので、一般的には、のれん=買入のれん(狭義ののれん)を指すことが多いです。
広義ののれん
自社の超過収益力を自社で計算した場合ののれんは貸借対照表に計上されません。
こののれんを自己創設のれん(じこそうせつのれん)といいます。
買入のれんと自己創設のれんを合わせたものを「(広義の)のれん」ということがあります。
- 自己創設のれんは貸借対照表に計上されない
- 買入のれんは貸借対照表に資産として計上される
のれんを計上した後の処理
のれん計上後の処理について説明します。
のれんは、効果が長期間続く無形の資産なので、無形固定資産に該当します。
資産計上後の取り扱いは、日本と欧米(IFRS・米国基準)で異なります。
日本基準では
超過収益力は時の経過により減少する
と捉え、減価償却を行います。
超過収益力の有効期間の見積りは難しいため、最長で20年と定められています。
また、他の固定資産と同じように減損処理の対象にもなります。
日商簿記検定では日本基準が対象じゃから、簿記検定的には「のれん=償却する」とおさえてしまってOKじゃ
欧米(IFRS・米国基準)では
超過収益力は会社の成長によりむしろ増えるものであり、時の経過による減価はない
と捉え、のれんは非償却となります。
ただし、買収先が大赤字を出したなどを理由として、超過収益力が見込めないとなった場合には減損処理を行います。
償却 | 減損 | |
---|---|---|
日本 | する | する |
欧米 | しない | する |
のれんと会計基準と財務諸表
以上をふまえて、「会計基準の選択」と「財務諸表への影響」の関係について触れておきます。
毎期の利益への影響
のれんは、買収という規模の大きい取引から生じるため、金額が大きくなりやすいという特徴があります。
例えばソフトバンクは4兆円以上ののれんが貸借対照表に計上されています。
しかしソフトバンクはIFRS採用をしているので、償却費用は損益計算書に計上されません。
もし、日本基準を採用していた場合には何千億円もの費用が生じます。
このように、日本基準を採用した場合、IFRSと比べると買収後の利益は償却費の分だけ利益が減少することになります。
よって、買収(M&A)を積極的に行う会社は、償却費の負担を嫌って、IFRSを採用することが多くなっています。
利益のブレ
ただし、IFRSはいいことばかりではありません。
毎期の償却をしないということは、多額ののれんが貸借対照表に計上されっぱなしということです。
そのため減損の対象になりやすくなります。
買収先の会社が予想よりも業績を伸ばせなかった場合には、のれんの減損損失を認識します。
よって、IFRSの場合には、日本基準よりも多額の減損が認識されやすくなっているため業績がぶれやすいという特徴があります。(日本基準でものれんは減損の対象資産なので、日本基準採用しても減損損失が計上されることはあります)
最近だと、東芝子会社のウエスチングハウスの減損2600億円が大きなニュースになってたわね
メリット | デメリット | |
---|---|---|
日本 | 利益のぶれ少ない | 償却費の分だけ毎期の利益は少なくなる |
欧米 | 償却費がないので利益が出やすい | 減損損失により利益がぶれる可能性が高い |
最後に
本記事はこれで以上になります。
のれんは抽象的なものなので、特にわかりづらいものの1つです。
本記事では具体的に説明することで、のれんを具体的にイメージできるようになることを心がけました。
「のれんがよくわからない」という状態から「わかった!」となってもらえれば幸いです。
コメント
コメント一覧 (7件)
日本の基準で、企業結合後に生じる自己創設のれんにつながる支出の費用処理と、企業結合により生じる購入したのれんの償却とは別のものであり、取得ではなく内部源泉によって同じ価値を創造するためには、同程度の支出が必要であり、むしろ、購入したのれんの償却により、その成長を内部源泉の企業と取得による企業を適切に比較できる。と言われていますが、内容が頭に入ってきません。ご教授頂けると嬉しいです。
<前提>
[具体例]次のA社とB社を比較する。
A社:合併により利益の増加を目指す。
B社:合併せずに自力で利益の増加を目指す。
↓(この場合)
A社:のれん償却費が計上される
B社:計上されない
↓(よって)
のれん償却すると、A社とB社のように、合併を積極的に行う会社とそうでない会社の比較ができなくなるのでは?
<前提ここまで>
ご質問の文章は、この考えに対する批判です。
B社:自力で利益の増加を目指す(A社と同じくらいの収益獲得を目指す)
↓(それなら)
B社では、A社における合併対価と同じくらいの投資が必要
↓(それなら)
B社のPLには、A社におけるのれん償却費に相当する額が計上されるはず
↓(よって)
むしろ、A社とB社を比較するなら、A社側でのれん償却をすべき
こんなイメージです!
日商簿記2級取得に向けて勉強しています。連結は暗記!と思っていましたが内容を理解したら問題文を頭でイメージしながらスッと読めるようになりました!
すごく分かりやすい説明でとてもありがたいです!また利用させて頂きます(^-^)
そのように言っていただき嬉しいです!
2級合格に向けて頑張ってください👍
簿記2級の勉強をしています。こちらでDFTの概念等とてもわかりやすくてありがたいです。
連結会計の開始仕訳をしていて、2年目以降「のれんが減ったのに同じだけ利益剰余金を増やすのはなぜ?償却してないじゃん」と引っかかっていたのですが、「のれんは資産扱いだけど資産じゃないから償却されずに利益剰余金に吸収されていくのか」と、ようやく納得できました。ありがとうございました。
DFTではなくてDTAです、すいません。
コメントありがとうございます!
お役に立ててよかったです!簿記2級の合格に向けて頑張ってください👍