なぜ、売価還元低価法で商品評価損を算定できるのか?(売価還元法)

「なぜ、売価還元低価法で商品評価損を算定できるんだろう」

誰しもが1度は思うこの疑問。

僕の講義では「値下げは収益性の低下だから、値下げによる差は、収益性の低下を意味する」と、「わかるようで、いまいちわからないけど、まあそうなのかな」と思える程度の説明をしています。

というのも、ちゃんと解説している書籍を見たことがなく、上記以上の理解ができなかったからです(むしろ、それで全く問題ないのですが)。

ただ、せっかくなので今回考えてみて、以前よりは理解が深まったので、記事にすることにしました。

この解説は何か解説書を参考にしたわけではありません。自分で考えてみただけなので、間違ってる可能性もあります。
ただ、読む前と比べると、理解(もしくは、こじつけ度合い)は深まると思います。

 ▼

具体例
  • 仕入額:90円
  • 原始値入額:60円
  • 値下額:30円

当期の仕入数量は1個であり、期末においてその1個が売れ残っている。

今回はすごく極端な例で、「1つの商品を仕入れて、それがそのまま在庫として残っている」という設定にしました。

おじさん(先生)

難しい論点は、極端な例にしてみるのが考えるコツじゃ

まずは、普通に計算してみます。

1.原価率の算定

  • 原価法原価率:90円÷(仕入90円+値入60円-値下30円)=75%
  • 低価法原価率:90円÷(仕入90円+値入60円)=60%
ボブ(勉強中)

低価法は値下げを無視して原価率を算定する方法だったね

おじさん(先生)

今回の記事ではこの75%と60%が頻繁に登場するから、ちゃんとおさえておくんじゃぞ

2.原価法原価率による期末在庫の算定

上記のとおり、原価法の場合の期末在庫は90円となります。

期末在庫:期末売価120円×原価法原価率75%=90円

ボブ(勉強中)

ボブ:お、ちゃんと取得原価の90円と一致している!

そうですね。

とりあえず、売価還元原価法によった場合、きちんと期末商品を算定できることの確認ができました。

今回は、商品数が1つでしかもすべて売れ残っているという例にしているため、期末在庫を正確に算定できています。しかし実際の売価還元法では複数商品をまとめて計算することになるので、正確な計算結果とはなりません。

3.低価法原価率による場合(商品のB/S計上額の算定)

B/S計上額:期末売価120円×低価法原価率60%=72円
(∴ 商品評価損:90円-72円=18円)

以上が、普通に売価還元低価法を適用した場合の計算結果です。

ボブ(勉強中)

低価法原価率を使うと、90円で購入した商品が72円になるのか…

この72円にはどういう意味があるのでしょうか?

もっと言えば、収益性の低下が反映されているのでしょうか?

結論から言うと、収益性の低下が反映されています。

この点を理解するためには、1つ前提知識が必要です。

それは、残留有用原価説(と、回収可能原価説)という考え方です。

この2つの説は「商品評価損を計上する際に、商品の金額をいくらまで下げるべきか?」に関する考え方です。

  • 回収可能原価説:回収可能価額まで下げるべき
  • 残留有用原価説:正常な利益が計上される額まで下げるべき

次の数値を用いて、これら2つの説の違いを解説します。

  • 取得原価:90円
  • 期末売価:80円
  • 通常、当社は利益率40%(原価率60%)で商品を販売している。
① 回収可能原価説

商品を販売しても80円しか回収できないなら、商品の金額は80円まで下げるべき。

商品評価損は10円(=90円-80円)。

② 残留有用原価説

正常な利益率が40%なので、商品の金額は48円(=売価80×原価率60%)まで下げるべき(48円とすることで、翌期に80円で販売した際に、正常な利益が生むことができる)。

商品評価損は42円(=90円-48円)

ボブ(勉強中)

残留有用原価説だと、商品の金額は80円ではなく48円まで引き下げるのか…

おじさん(先生)

現行制度上は「商品の金額は正味売却価額(≒回収可能価額)まで引き下げる」とされておるから、現行上においては残留有用原価説は採用されておらん。んじゃから、しっくりこないのが普通じゃ。

 ▼

「残留有用原価説という考え方がある」ということを知って頂いた上で、再度、売価還元低価法を考えてみます。

さっきの具体例を再掲します。

具体例
  • 仕入額:90円
  • 原始値入額:60円
  • 値下額:30円

当期の仕入数量は1個であり、期末においてその1個が売れ残っている。

これは、

  • 当初は、90円で仕入れた商品を150円で販売するつもりだった(当初の利益率は40%)
  • でもその後、定価を120円に値下げした(実際の利益率は25%)

ということを意味します。

また、各原価率は下記のとおりでした。

  • 原価法原価率が75%
  • 低価法原価率が60%

そして、

低価法原価率は、値下げをしなかった場合の原価率

です。

これらを勘案すると、

「低価法原価率60%は、正常な利益40%を獲得する場合の原価率」

と捉えることができます。

つまり、

低価法原価率に基づき商品の金額を算定する=翌期に販売した際に、正常な利益を計上できる

ということです。

商品の額を「正常な利益が計上される額まで下げる」というのは、まさに残留有用原価説の考え方です。

このように残存有用原価説を前提にすると「低価法原価率を用いることで、商品の収益性の低下を反映させられる」ということに納得感を得ることができます。

逆に言えば、残留有用原価説の考え方がわかっていないと、売価還元低価法における商品評価損は理解できないと思われます。

 ▼

今回は以上になります。

この記事が少しでも理解のお役に立てれば幸いです。

とは言っても、最初にも言ったとおりこの記事の説明が正しいのかどうかはわかりません^_^;

 おまけ 

おじさん(先生)

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • なるほど…。
    低価法を採用して値下げを考慮しなかった場合にも期末実地売価で売ると仮定すれば原価率が上がる。
    (分母である売価は固定だが、原価は値下げを考慮しない分上がるため)
    原価率が上がったということは裏返し的に収益性が低下するのなら、その原価率の差が評価損になるのだ、とじっくり考えて自分なりにまとめました。
    けど記事の冒頭にあったように、試験勉強においては勘定図とテキストのやり方だけ付け焼き刃のように覚えておけば点が取れるので、考察はいらないんですよね…。合格してから精進なさっている講師の方でも同じように悩んでいるのが垣間見えて、嬉しかったです。あまり深く突っ込まないようにするのがコツですね笑。
    ありがとうございました!

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